2005年08月26日

自学習力100up!

口だけケンタは俺の担当していた生徒の親友で、県で髄一の進学校に通っている3年生だ。

こいつがまたやらない。

宿題を指示しようが、やり方を教えようがなかなかやらない。

呑み込みは悪くない方だと思う。

中学まではトップクラスだったのに、高校に進学すると同レベルの中からやる奴やらない奴の差がつき、ケンタは瞬く間に不動の最下位10傑になった訳だった。

流石に不安になったか、普通にやってた親友の誘いを機会にノコノコ現れたのだ。

俺、こういうボンクラの料理が好きなんだ(笑)

俺は最新の模擬試験の結果、定期テストの結果表を持って来させた。

第一局。先手ヤン☆スー、後手ケンタ。

「よっ! 来たね」

「チィース([こんにちは、よろしくお願いします]の略)」

事前に母親から聞いた話によると、中学までは一を聞いて十を知る知性と、部活のサッカーではエースストライカーという文武両道で努力知らずの神童ぶりだったとか。

最近では親子でも話にならない。

やはり努力が大切と悟った親と、やればいつでもできるのさと現実を見ないようにするケンタのギャップだった。

「また個性的な成績だなあ」

「へへっ」

個性という言葉が好きなようで、ケンタは嬉しそうに笑った。

俺が誉め言葉で“個性”なんて使わないことは後々知ってもらえればいい事だ。

「行きたい大学とかある?」

「法政あたりっすかね。警察官になりたいんすよ」

また現実的な話を!

実際、最近の警察官は出身高の偏差値が急激に伸びている。

大卒は当たり前で、むしろ高卒の求人の方が少ない。

しかも法政というと東京6大学のひとつだが、難易度なんて高くない。

選択が的確だ。

世間は東京6大学を持ち上げ過ぎている。

東大、早稲田、慶應、法政、立教、明治(最近はちょっと違うが)を総称するこの言葉は、実は6大学野球から来たものに過ぎない。

東大、早稲田、慶應はともかく、下の3つは並べる程ではないのだ。

「法政の法学部でいいの?」

「ハイッ」

「返事がいいねぇ。しかも法政の法学部なんて通の選択だ!」

最初は褒める。誉めちぎる。誉め倒す。政治家なんて誉め殺しまでする(笑)

手元の資料から突っ込もうと俺は、持参させた成績表に視線を落とした。

「ごめん、きつい事言うけどこれも仕事だ」

「大丈夫っすよ」

不安だな(苦笑)

「このやり方をしていると、法政どころか偏差値20下げてもキツイ」

ケンタの成績は解りやすい。

定期テストは理科社会でなんとかしのいでいるが、模擬試験になるとそれすら底辺である。

これは、テスト前になると暗記物だけやるが、模擬試験のように範囲が不分明なものは手も足も出ぬまま放り出すのだ。

なんと、俺はテストで性格までわかる(笑)

潔いというか、単に勉強に対しての価値観が低いのだろうな。

「そうっすかねぇ」

ケンタ、まだまだ効かぬとばかりにゲラゲラ笑った。

俺はそれを辛抱強く何度も頷いて聴いた。

「そうだな。そういう楽観は気負いが無くていい。ただ俺はな、ケンタ君に素質を感じる一方で、素質を殺す致命的な一面も発見しちゃったんだよ」

「なんすか?」

俺はケンタの成績による性格分析を伝えた。

「すごいっすね。当たりっすよ!」

俺は面白くも無さそうに口を開いた。

「やる事がわかって無いとやれない。つまりケンタ君は指示待ち人間だってことなんだよ」

思っても見なかった指摘に、ケンタはたじろいだ。

ここで間を空けると嫌われるだけだから、その間隙を縫って第2撃を叩き込む。

「だからこそ、ケンタ君は焦ってきたように見えた。だってそう変わらないハズの親友のハツ君が主体的に伸び出したもんな。俺も君なら気になると思うよ(笑)」

「うーん、やっぱ隠せないっすね」

ハマった!

プライドの高いヤツの相手は、どんなに叩いてもまた起こしてやらないといけない。

おそらくそれはケンタもわかってて乗っただろう。

それでいいのだ。

「君は非常に素直だな。それはこれからも人間として伸びて行くのに大切な素質だ。大事にしろ」

「ハイ!」

こう来ると楽なんだ(笑)

ケンタは懐くとそれはもうかわいい生徒だ。

お姉さんタイプに好かれそうだ。なぜかクソッて気持ちもある(笑)

「ケンタ君はもうスタートしなきゃと思ってるハズだけど、俺の所に来た理由はあるの?」

「んーやっぱりハツが急に伸びたからっすかねぇ」

「ハツ君は自分でやり出したから伸びてるだけだよ。君もやれば伸びるさ」

やはり誤解して来たのか(笑)

ハツというのはケンタの幼馴染みで、ケンタとは違ってコツコツ型だ。

成績も真ん中ぐらいだったのが、理系クラスで3以内に入るようになったのだ。

週1回も来ないし、俺と禅問答みたいなメールを何度かするだけで平気なタイプなのだ。

「ケンタ君はハツ君と同じじゃないよ」

「ハツ理系っすもんね」

「うん、それもあるけど、ハツ君は主体的なんだよ」

その言葉はケンタを相当に傷つけたようだ。

「主体性ってのは、才能じゃなくてトレーニングの成果なんだよ。しかも忘れる事もあるし」

俺はケンタの目をじっと睨んだ。

「普段やってないだろ?」

「…はい…」

俺には理由がわかるんだよな。

「いつもやらなきゃとは思ってんだよな?」

やろうと思って家に帰る

 ↓

部屋が散らかっている

 ↓

片付けなきゃなと思う

 ↓

しかし夜も遅い 掃除機も迷惑

 ↓

明日早く帰って気合い入れて片付けよう

 ↓

やらない

 ↓

最初から繰り返す

「だろ?」

「…当たってます」

やらないやつの行動パターンなんて俺には分かりきっているのだ。

「ケンタ君な、今日早速やって欲しいのは…」

部屋を片付けるな!

「え」

「正確に言うと、勉強机の周りから気の散る物をどかせ」

マンガ、携帯、リモコン、ゲームetc…

「これはね、受験環境デザインという考え方」

片付けは年末にやればいい。気の散る物を部屋の隅に押しやるだけでいい。

それだけなら1時間以内に終わる。

断じて片付けではない。

「親に怒られますよ」

「俺から言っとく。ただし、この指示ができたかどうかはオフクロさんに確認してもらうよ」

「げぇっ」

特にそれ以上勉強の話をするでもなくケンタを帰した。

そしたらだ。

『一体どういうつもりなんですの?』

指示を伝え聞いた母親からクレーム電話が来たのだ(笑)

「よく訊いてくれましたァッ!」

俺はジム・キャリーのごとく素っ屯狂なノリで応じ、まず母親の勢いを食った。

「ケンタ君は現在や未来を見る余裕が無いんです。だから彼の心の中から部屋片付けという過去が占める割合を減らす作業が必要なんですねェッ!」

勢いで納得させて電話を切ったが、頭が痛いのは母の遺伝のようだ(笑)

その後、しぶしぶというか、恐る恐るというか、ケンタと母親から連絡をもらって受験環境デザインの完了報告を受けた。

少しだけ手直ししよう。

「ケンタ君な、きみは左右どっちが利き手だっけ?」

『あ、右ッス』

「じゃあペンは右手に持つよね?」

変な事聞いてくるなあといった体で「ハイ」と返事する。

「ペンを握りながら他の物が触れるようにするんだよ」

例えば、辞書とか参考書の類は、左手に近い方がいい訳だ。

ケンタはアホの子みたいに頷いた。

お前は素直で好きだ(笑)

俺はダメ押しに課題をひとつ出した。英語の予習をすぐやれと。

小一時間もたった頃、ケンタから電話が来た。

「終わりました!」

「どうだった?」

「なんか爽快ですね!」

ケンタは新しい事に気が付いた。

「それはね、溜ってた物を吐き出した爽快感なんだよ」

今までやらなかった事をひとつやっただけで、もう天下を獲った気分になるもんだ。

これからのケンタは机に向かう可能性が高くなる。ならないかも知れない。

まだそれは気分的なものでしかなく、自己管理ではないからだ。

ケンタは自己管理ができないか?

そんな事はない。

毎日同じ時間に起きて生活しているのだ。

自己管理能力というのは誰にでもある。

本当に無いというのであれば、それはもはや障害と呼ぶべきだろう。

なんでもそうだが慣れと不慣れがあるだけだ。

つまり、トレーニング。

いちいち呼び出すほどでもないので、夜、ケンタに電話した。

「どう、やってる?」

ケンタはニヒヒと笑った。やってないな。

いわゆる想定の範囲内でございます!

「勉強を習慣化する方法、知りたい?」

ケンタは一も二もなく飛び付いた。少しは考えろ(苦笑)

商売人はドリルではなく穴を売れ、という原則がある。

だが一方で、教育者は魚を与えず釣り方を教えろという原則がある。

その点で俺の発想は教育者である。

「自分が今までやらなかった経緯を考えてみようよ」

「?」

「俺のお袋の例なんだけど、仕事と家事を両立するタフな人なんだよ」

だがこれは多くの主婦がそうなので、女って根本すげぇなと思う。

「仕事帰りに買い物してそのまま家事を始めるんだよな」

ヒントがコレ。

「ケンタ君の昼飯は学食?」

「いや、お袋の弁当と購買のパンとかっす」

「なら、ケンタ君より早起きだな」

それで仕事をして掃除洗濯家事炊事。おまけにテレビ視たりケンタに勉強やれと叱咤したり、俺にクレーム電話を入れたり(笑)と獅子奮迅の働きっぷりだ。

「確かにすごいっすね…」

ケンタはぎくりとしたように肯定した。

世の母親からすると高校生なんてトロいのだ。

「ケンタ君も後輩がちんたらやってるとムカつくだろ?」

「はい」

自己管理のヒントは母ちゃんだったのだ!

「オフクロっすか!」

前置きの効果があったと見えて拒絶は無かった。

「そうだ。世の主婦は自己コントロールの鉄人なんだよ。俺もそうだったけど、高校生なんて1つやったらすぐ寝ちゃうだろ?」

「そういやオフクロがゆっくりしてるの見た事ないですね…」

というより、休み休みやった方が疲れるのを体験的に知っているのだ。

「俺が口で言ってもいいんだけど、お前が欲しい答えをここまでヒント出してやったんだ」

「はい、そうですね」

そういえばケンタの口調がおちゃらけてないな。

俺はケンタに母親の自己管理を観察する課題を出して電話を切った。

その直後、なんと今度はケンタの母親からの電話が来た!

『ケンタがずっと電話してるみたいで全然勉強しないんです!』

はー疲れるよ(涙)

お母さん、ケンタ君がが自己管理力を習得するまではもう少し時間がかかります。時間をください。ちなみに今話してたのは自分です」

俺は母親の自己管理力をよく見て分析してみろとの指示を敢えて伝えた。

金を出すスポンサーを安心させる&くすぐるために(苦笑)

これも仕事だよ。

「と言っても、自然体でいいですから、お母さん。ケンタ君の話を聞いていると、お母さんは自己管理のセンスも経験も抜群です。お母さんが歯がゆい様子なのもうなずけますよ」

「あら、そう?」

「はい。それはもう!」

俺のゴマスリは効を奏した。すかさずダメ押しにかかる。

「しかし僕もそうだったんですが、やはり親子だとそれをうまく伝えられないんですよね。この年じゃなかなか親のすごさなんて分かりませんけど、ケンタ君はさすがです」

「そうよねぇ…」

「息子さんを任せて下さい」

 続く
posted by ヤン☆スー at 18:40| Comment(0) | TrackBack(4) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

自学習力100up!A

さすがに舌先三寸な調子になってきたが、どっかでタイミングを見てこの過干渉も処置しないとな。

今に殺人事件が起きそうな親子だ。

ケンタはしつけという名の自己をコントロールする訓練を受けていない。

となると、天然であの学力なのだ。

つまり、好きな事だけはたんまりやってきて、興味のある事柄の理解力や集中力がズバ抜けているのだ。

これから社会に出て興味のある事だけやって行けるならいいが、そうじゃなきゃ脱落するしかない。

実力を養う学習力が無いと、運しか頼れないのだ。

俺はボールペンをくわえてピコピコ動かしながら考えた。

やっぱりあの母ちゃんに手伝ってもらわないとダメだな。

ケンタもあちこちから得た情報によると勉強をサボっている。

やってるかどうかはテストでわかる。

それどころか、同級生の友人ハツの話しによると俺の指示を後輩相手に得意そうに披露していたという。

人の知的財産権を(笑)

まあ子供のやる事なんだから盗みぐらい大目にみてやらないとな。

やる事の大体のあたりをつけてペンを手に取ると、意外なほどスラスラとまとまった。

俺は電話を取り、ケンタの家にかけた。

「あ、もしもし。ヤン☆スーですが」

『先生! ケンタですか? まだ帰ってないんですが』

声がいやに若いが母親だったようだ。いるよな、電話だと声が若い人(笑)

「じゃあお母さんにも先に。実は今度そちらにお伺いしたいんですよ。ケンタ君もお母さんもいらっしゃる時間に」

「ケンタは遅くなりますよ?」

来るなと言いたいようだ。

「あはは。僕は平気ですよ。じゃ、帰ったら電話貰えるように伝えて下さい。受け持ち全員にやる出張講義ですから」

「こんばんは〜」

夜も22時を過ぎた時刻の招かれざる客である。

「うちのバカ息子の為にこんな時間にお越しいただいて、本当に申し訳ないね」

父親が出迎えてきた。気さくな感じで、社交辞令っぽさはない。

「こんな時間まで仕事になるんですか?」

「えぇ、まぁ。特に今回みたいなケースは最初が肝心ですからね。夜分にご迷惑をおかけしますが」

俺は袖を巻いて玄関を上がった。

「お疲れ様です」

ケンタも冗談めかして出迎えた。

その部屋は鳥の群れの襲来を受けたようだった(笑)

俺はリビングに家族を座らせて咳払いをした。

「家に帰ってからテレビやゲームに寝てしまうなど、必要な事をやらなくなってしまう原因のほとんどは部屋が片付いていない事です」

母親が強くうなずいた。

「この片付けの重要性はわかる人にしかわかりません。散らかった部屋に住んでる人も、片付けないと始められないという強いイメージを持ったまま毎日を過ごしています。ケンタ君な、俺が今日何しに来たと思う?」

「片付けすか?」

俺はニヤッと笑った。

「片付けと整理をしてもらいにね」

俺はリビングに家族を座らせて咳払いをした。

「家に帰ってからテレビやゲームに寝てしまうなど、必要な事をやらなくなってしまう原因のほとんどは部屋が片付いていない事です」

母親が強くうなずいた。

「この片付けの重要性はわかる人にしかわかりません。散らかった部屋に住んでる人も、片付けないと始められないという強いイメージを持ったまま毎日を過ごしています。ケンタ君な、俺が今日何しに来たと思う?」

「片付けすか?」

俺はニヤッと笑った。

「片付けと整理をしてもらいにね」

「さあ移動です!」

夜中であることも忘れて手をパンと打った。

ダンボールやらゴミ袋を持参してケンタの部屋に4人で入る。

もうゴミと無気力を象徴した森のようだった。

「人間はね、スポーツやらで無い限り特別才能はいらない」

仕事に関して整理ができていればいいのだ。

喩えて言うならば、暗闇の中でもホッチキスの場所がわかる。

それが理想的な整理された環境なのだ。

先日の指示だとどうもケンタには具体的ではなかったようだった。

俺は胸からペンとメモを取り出した。

「ケンタ君はもう3年だよね」

俺はボールペンを滑らせた。

「この一年間の優先順位を作ろう」

メモに“優先順位”と書き、1〜3までの番号を振った。

「この一年の間に、3つまでの優先事項を作ろうよ」

「あー、いいっすね!」

「ところで、何で優先順位なんて作るかわかる?」

ケンタは目に見えて押し黙って考えた。

「選択に困った時に機械的に選ぶって事ですか?」

わかってんじゃん(笑)

「満点! 例えば勉強しようか寝ようか考えた時に、勉強の優先順位が高ければ、だよ」

ケンタの顔がぱっと明るくなった。

「そうだ。君はまず簡単な事からでいいから“約束を守る”人間になろう」

約束を守れない人間は、どんどん後ろ暗い思いに心を満たす。

それがどんな精神に変質させるか想像に難くない。

「約束は他人とだけじゃなくて、自分との約束がも大切だ」

俺は3つの優先順位を考えるようもう一度促し、ケンタは言わされてるような面持ちで言葉を振り絞った。

「まず…家に帰ったら英語の予習を…英語の勉強をします」

後ろから父親の鼻から溜め息が聞こえた(笑)

「じゃあさ、勉強というのも受験勉強に限定しようか。法政だって決めてるわけだし」

「ケンタお前法政行くのか?」

ん?

父親の一言で明らかにケンタが弱腰になった。

「まあまあお父さん、これからでも間に合いますよ」

「法政なんか半年後からでも間に合う」

うっひゃあ! 地雷だった! ナニナニ、何があった?

脇を見やると、母親も居づらそうにキョロキョロしている。

やべーもん放り投げたな。

「ケンタお前法学部行きたいんだろ? なら口だけでも早稲田とか慶應ぐらい言えよ」

「…っせぇな」

ケンタが聞こえるように呟いた。

俺がいなければ…というような一触即発の雰囲気である。

俺、空気読めないからこの手の失敗多いんだよな(苦笑)

ったく、しょうがない親子喧嘩だな。

「あぁ、確かに早慶もいいんですよ、お父さん。むしろ僕なんかからしたら東大勧めたいぐらいなんですよ。ははは!」

「東大は無理でしょう」

父親は笑い、目を細めてケンタを見た。

俺もケンタを見た。

「ケンタくんさ、俺としちゃ君ほどの素材は東大狙わしたいのが本音なんだよ!」

「いやー俺私大クラスっすから、国立は無理っすよ」

「んなもんゴマンと受からせてるよ」

「いや先生、そこまで期待してないですから、どうぞ話続けて下さい(笑)」

「俺も東大とか別にいいっすよ!」

わかってくれりゃいいんだよ。

こういう場合は極端な話を真顔で勧めてしまうと簡単に矛先が収まるのだ。

ただこの微妙な親子3人の確執は覚えておかないとな。

「じゃ、話を続けるしかなさそうですね」

俺は残念そうを装って再びメモを手に取った。

ケンタの優先順位は「1.英語の受験勉強」「2.片付け」「3.読書」となった。

その他の受験勉強は4位以下という事になる。

「優先順位というからには、守り方がある」

俺はごくごく当たり前の事を偉そうにたれ始めた。

優先順位を立てたら、一切妥協してはならない。

高い順位からこなす。

そうすると、時間の管理がうまくなるのだ。

手が空いてる時は英語を勉強する。一先ず終わった。ああ、片付けよう。片付けた! あ、英語のアレやろう。

優先順位は常に自分を正気に立ち帰らせるのだ。

「ケンタ君! 本格的な受験環境デザインを始めるぞ!」

父親が?という顔をした。母親がそっと耳打ちすると手元のゴミ袋を見やって納得したように頷いた。

「マジ受験勝ちたい?」

「お、おっす!」

「そうだよな、勝ちたいよな」

「そりゃそうっすよ!」

「よし、勝とうぜ!」

「はい!」

小さなYesを確認しながら大きな物にする。人は頷きながら納得していくのだ。

「大学はいいぞ!」

法政大のキャンパス情報を思い付く限り並べたて、ケンタの脳中を法政で満たしていった。

俺はケンタに机の中や上にあるもの全てを床に降ろすよう指示した。置き切れない分はベッドに置かせた。

さあ、これでもう終らせないと布団の上で寝られない!

その間、母親には水の入ったバケツと雑巾を用意させており、ケンタに机を拭いてもらった。

「キズとか汚れに思い出深いものもあるだろ?」

「はい」

「お前が一緒に過ごしてきた机だ。その懐かしさは、机という戦友への情なんだから大切にしてやれ」

俺は父親の方に向き直った。

「すいません、学業に無関係な本を全部捨てます」

「お母さんすいません忘れてました! 本を縛るヒモをお願いします」

母親は面倒そうに下に行った。

すかさず俺は!

「おい! 慈悲で時間を作ったから、ベッドや枕の下のエロ本を鞄に隠せ!」

父親がにやりと笑いながら俺を見た。好意的で良かった。

ケンタはケンタで本当にあちこちから数札取り出して急いで鞄に放り込んだ(笑)

しかも洋物!

「今度お父さんのも預かってくれよ」

「高ぇぞ!」

親子の情をちょこっと流せたかな。

俺はケンタの本を種類ごとに分別していった。

俺の指示は非常に簡単だった。

「目的外の物は机から遠ざけるか、今日捨てる」

父親はにやにやしながら相槌を打ち、母親はチラと時計を見た。もう夜の10時30分だ。

当のケンタは、眠そうだ。この野郎(笑)

『目的に沿った片付け・レイアウト』という事と、4人(うち3人は手慣れた大人)の人勢もあり、これが30分程度で終わってしまった。

普通なら半日の作業だろう。

今日選ばなければ捨てられてしまうのだからケンタも必死だったのだ。

ケンタを座らせると、6畳の広さを実感したようだ。

俺は片付けが済んだ後を見回して、今度は整理を具体的に始めてもらう事にした。

俺の持論だが、整理をしたければ徹底的な片付けをすればするほど都合がいい。

大事だと思っていたハズの物でも、捨てて何日か経つと案外平気なものである。

俺は今年引っ越してテレビを捨てたが、1日当たりの平均視聴時間3時間はあったのに今はまるきり平気なのだ。

人間は慣れる生き物だ。環境を強引に作らねばならない。

「次にケンタ君に行動予定を考えてもらおうと思ってるんだ」

怠け者がこなせる予定?

「あーこいつは予定表なんかこなさないからそういうのは無理だよ」

父親が母親を制してそう言った。同じ事を言おうとしたのだろう母親はエプロンを揉みしだいた。

父親がさっと俺に目配せしたのは、俺を慮って母親を牽制したのだろう。

それは俺への期待の証だった。

「予定表は…表は作りません」

俺は座らせたままのケンタの肩にポンと手を置いた。

「毎日6時間勉強しようか?」

「い、いやあ…6時間はちょっと」

「だよね」

俺はニコッと笑ったが、ケンタは同調できなかった。

「じゃあ毎日5分ならどう?」

「5分でいいんですか?」

いいわけねえだろ(笑)

「5分のほんの36倍やろうか」

とっさに計算できないので、俺は指を3本立てて眼前に差し出した。

「3時間!」

目に見えてヘコむので、俺はメモを引き破いて机に置いた。

親子3人の注目を集めて赤ペンを取り出した。

「社会人は誰でもわかってる事なんだけど、仕事は忙しい人に頼むのが原則なんだ」

父親がにやりとした。ツボだったらしい。

「そうなんですか?」

ケンタの狼狽が初々しい(笑)

「なぜなら、忙しい人は時間の割き方を知ってるからだ。しかし、年中遊んでるやつは、飲み会の約束なんて終わりがハッキリしない事ばかりだから、時間を管理する観念ができなくなるんだ」

ビジネスの世界ではそう言われる。

「時間の割き方は才能じゃない。自覚と実行だ」

つまり、教育と訓練の問題なのだ。

「よし、説明しよう!」

俺は引き破いたメモにでっかく丸を描いた。

「1日のスケジュールだ。朝は何時起き?」

ケンタの毎日の様子を丹念に聞き取り、シャッと書き込んでいった。

「ケンタ君はほぼこんな感じで毎日すごしてるんだよね?」

「はい…」

夜の過ごし方がまちまちなのは、部活で残った体力次第ということだろう。

「この毎日のスケジュールは自分できちんと立てたものかな?」

「いえ、そりゃないです」

「だろう(笑)」

俺の余裕がよくわからないケンタは表をにらんだ。

「スケジュール表なんてものは〆切がわかればいいんだよ。自己管理には関係無い」

なら書かせるな!

(…笑)

「自己管理の秘訣は“挿入する”事なんだ」

下ネタではない(笑)

 続く
posted by ヤン☆スー at 18:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

自学習力100up!B

「挿入?」

さっきのエロ本を納めた鞄にケンタと父がチラッと目線を移した。

アホ親子(笑)

俺はわざとらしい咳払いで注意を向けると、ケンタのスケジュールにもう一度ペンを走らせた。

「俺の言う自己管理の“挿入”というのは、例えばココ!」

表の『9時半帰宅』と『9時半メシ』の間に線を引いて『30分』と結んだ。

「な? これが挿入」

何かの前にやる。

必ずやる事の前にやる。

時間の作り方のうまいやつは、何かの前に挿入するのだ。

「後じゃダメなんですか?」

ダメ!

「俺もサボり癖があるからリアルにわかる。TV視てからやろうと思って本当にやるか?」

「ああ、やらないと思います」

「どうしてか?」

「面倒になりますよ」

「俺もだ(笑)」

脇で父親が笑った。母親は本音か建前か撫然とした様子だ。

「怠け癖のある人間は、何かをやるのに『後でやろう』と言わない」

朝飯前、という言葉がそもそもそうなのだ。簡単な事ほど後回しにしがちな故に、朝飯前にやろうというのだ。

朝起きてから、と言わないのが昔も同じ心理であった事を窺わせるよな。

「何でも『○○の前に』と意識すれば変わるよ。それやってからじゃないと先に進まないからね。分割してもいいから毎日90分を挿入するんだ」

「先生さ」

父親が脇から口を挟んだ。

「あなたに全部任せるよ。自己管理でこれだけ言える人なら安心だわ。今日はまだなんかあるかな?」

「んー、そうですね。後は取り立てて無いです」

「お前、どうする?」

連れていきたそうに隣の母親に声をかける。邪魔になると踏んだのか。

「私は最後まで付き合うわ…」

「あと少しで終わりますから」

「お父さん、今度コレどうですか?」

俺は口元で杯を傾ける仕草をして笑った。父親はにやりとして「いいね」と言って下に降りていった。

「先生、終わりました」

ケンタが勉強時間の挿入を終えて俺を呼んだ。

「おっ! 気合い入ってるね、さすが!」

ケンタは晩飯を食わない時があって、それは部活帰りに友達と軽く食うからだ。

ただ、風呂だけは必ず入りたいらしい。その入浴前に90分まるまる入れてあった。

あ、そうか。あれも言わないとな。

「ケンタ君は勉強の時、集中力がどのぐらい保つんだい? ふっと時計を見るとどのぐらい経ってるか」

ケンタはちょっと考えた。

「30分ぐらい…ですかね(笑)」

なら3倍は保たないよな(笑)

「ちょっとさ、集中力に見合った時間の使い方を話そう」

「はい?」

集中力はいずれコントロールできなくてはならない。

だが、そのトレーニングはしないといけない。

「30分毎に15分の休憩を取るんだ」

母親が不機嫌そうだ。

まあまあ(笑)

集中力だってトレーニングの成果である。

普通はしつけの範囲だが、核家族中心の世界でそこまで要求するのもかわいそうじゃないか。

「30分でピタッと止めなきゃダメだよ。あくまで集中力の育成が目的なんだから」

「は、はい!」

15分の休憩には漫画を読むでも、親にこんな勉強をしてるという雑談でもしてみればいい。

もちろん物足りなくなったら30分を40分でも60分でもすればいい。

メリハリと集中力が身に着くのだ。

「いいか? コツは“挿入”だぞ?」

続けてやるなら休憩を入れ、どんなにノッていてもストップしないといけない。

野生のままの集中力ではなく、訓練され、コントロールの利く集中力を手に入れるのだ!

「自己管理力を鍛えたいならそうするんだ」

「ハイッ!」

俺は携帯を取り出して時刻を見ると、もう24時を回っていた。

「さすがにもう帰りますよ。遅くまでありがとうございます」

俺は母親に頭を下げ、ケンタに親指を立てて見せた。

今日はタクシーじゃないと帰れないが、仕方ない。

当時住んでいた鷲宮という町は、もう終電では帰れないので駅まで行ってタクシーを拾うしかない。

車中、ケンタからメールが来た。

『ガッツでイキマス!』

携帯を閉じ、瞼を閉じ、机に向かわせるだけで悪戦苦闘した日々を回想した。

後は具体的な学習指示だから、現場の講師たちに報告書を書けばいいだろうと算段した。

ちなみに、本人がやらない上に親がうるさいと放り出されるだけだから、俺って偉いんだぞ。

何もかもが順調に進んでいると誰しもが思っていた。

父も、母も、講師も、俺も、そしてケンタ本人もが。

1ヶ月後の実力試験で思わぬ結果が出たのだ。

「ケンタの成績が下がりました」

母親から来た詰問に、俺は眉根を寄せるしかなかった。

本当に意味が分からなかったのだ。

やっても効果が出ない。やってなかったのか?

いや、俺はケンタがやってるかどうかのノートチェックをFAXでしていたのだ。

「ノートも教科書も全部持って来い!」

突破口にとそう言うのがやっとだった。

俺は生徒に教えられるなんて情けない大人ではない。

当時の自分の分身の様な生徒達と、今の落ち着いた自分とのギャップを考えるから、教えるという仕事が成り立つ。

俺はノート法などに興味は無かったが、この件から“書く”という行為についてを考え始めたのはいい機会だった。

例えば大まかには次の3つがあるように思う。

覚え書き。

練習。

整理。

どうも男子生徒は練習に傾く傾向があるし、女子生徒は整理に傾く傾向がある。

そしてできる生徒はノートや教科書に覚え書きをする!

起業家など学習してさらに伸びようという人間はメモ魔である事が多い。

これがすなわち覚え書きである。

知識や概念の吸収確保は大切なのだ。

そうやって思考の基本基礎といった“型”を身に付けるから応用も身に付く。

しかし一方で、部屋に本やビデオが山積みにされるのと同様な事も十分に起こり得る。

覚え書きだけで満足するのはダメなのだ。

せっかくの情報も、すぐに引き出せないんじゃ効果も半減!

テストが終わってから答えを思い出しても意味が無い。

せっかくの知識情報は、引き出しやすいように整理されている事が望ましい。

辞書を考えた人間の文明的貢献は計り知れないのだ!

人は忘れる。だから思い出しやすく、引き出しやすいように整理する方法は必要なのだ。

自分用にカスタマイズされた辞書があれば便利ではないか!

エロい単語に赤線が引いてあったり、ページにクセが付くのも理屈は一緒なんだよな(笑)

教科書や黒板をきれいに書き写してもそれは“清書”であって“整理”ではない。

思考がノッてきた。

しかし勉強の目的は“覚える”の一言に尽きる。

いくらため込んだ知識の検索に便利な方法や道具があっても、その場ですぐ使えなければ意味が無いのだ。

その為に練習が欠かせない。

俺達も箸を使ってメシを食えるのは練習の成果なのだ。

考えてみると箸を使うというのはかなり複雑な動作じゃないか。

掛け算の九九を今更計算したりはしない。

にさんがろくというフレーズを暗記しているだけなのだ。

その時の俺はノート法という概念への気付きに興奮していた。

「…先生?」

ケンタが呼ぶ声で現実に引き戻された。

「ケンタ君な、君の頭に入って無かった理由が掴めてきたよ」

ケンタのノートは設問のナンバーと解答と○×しか書かれていない。

これは後で見直して役に立つだろうか?

答えはノーだ!

ただこの時は解けなかった事がわかるだけ。

勉強という観点で過去を見直す時、それは今現在に活かす反省と工夫のヒントになっている事が大切なのだ。

昨日との違いが分かるからこそ自己学習の張りになるんじゃないか。

俺ははたと気付いた。

「ケンタ君は予習と復習の違いってわかるかい?」

「えぇと、だいたいの内容を掴むのが予習で、できるようにするのが復習ですかね…」

自信無さそうに言うが、それで当たっている。

「予習とか復習をしたことがあるか?」

ケンタは言葉に詰まった。彼も気が付いてきたのだ。

「君がやってきたのは問題集を解いてきただけだ」

たぶん答えが外れたら書き写してきただけだろう。

「3日くれ! ノート法をまとめるから」

もう伸ばせる!

覚え書き、整理、練習という3つの役目をまとめたノート法!

もう他の事が頭に入らないほど俺は夢中になっていた。

もくもくとアイデアが湧き出しては耳打ちしていく。

その一つひとつにうなずき返しては概念図に書き込んでいく。

白いA4のコピー用紙はみるみるうちに赤ペンのインクに染まって行った。

約束の3日と言わず、基本はその日の内に完成した。

俺は早速ケンタにメールをして、ルーズリーフを買ってくるよう指示した。

この興奮は伝わるだろうか。

俺が構想した通りの全てを話すとケンタは音を上げた。

内容が重かったらしい。

しかし俺は思いきり跳ね除けて徹底を指示する。

こうなるとケンタも俺を信じるしかないので大人しく従った。

とにかくやらせ続けた。

ある日、不思議な事に気が付いた。

この一ヶ月ほど、ケンタの母親が電話して来ないのだ。

そう思い出すと今度は気味が悪い。

おそるおそる確認すると、息子の変貌を認めていたのだ。

「あの子はサッカーもあんな風にやってたんですかねぇ」

目標だけと浮わつかず、現在地点の把握できるようになったケンタは、自ら計画を立てて勉強を始めるようになっていた。

勉強の面白さがわかって来たのだ!

興味を持つだけではなく、探究の楽しみを知ったのである。

長いトンネルを抜け、集中・継続・試行錯誤を繰り返せる勉強家に変貌したのだ。

希望の法政にはこの2005年の春に合格した。

自分の発明の事もあるが、今までで一番嬉しかった成果として記憶に留めている。

(『自学習力100UP!』終わり)

ノート術
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2005年08月24日

合格権現ノート

まず、「自分は勉強順調ですよ!」という人はここでストップしてください。

申し訳ない! もう読まないで大丈夫です。

逆に、「志望校に受かるための自学習に自信が無い」「資格をとろうと思っている」「昇進試験に力を入れる」「アイデアを形にする」「教え子の学習状況を管理する」というような点で行き詰まっている方のみが読めばいいと思います。

しかし読むのに10分ほど時間をください。くれない方は、時間のある時に改めてください。

サーバーが混んでいるかもしれません。まだ1週間ありますから、慌てないでください。

この俺ヤン☆スーに、10分間だけ自学習を語らせてください。

なので自学習力を鍛えたいという方のみが読めばいいと思います。

そもそも、俺も勉強はやらない方でした。勉強しようとするととたんに眠気が襲ってるタイプでしたし(笑)

そんな俺が、何の因果か、予備校で働くようになり、やらない生徒の面倒を見るようになりました。

元々やらない人間だっただけに、やらない人間の心理ってのが手にとるようにわかるんですね。

確かに最初はどうしようかなかなか手付かずだったのが現実です。

ところが、今ではそういう生徒が専門だと言い張れるぐらいになったんです。


「1日30分も机に向かわなかった高校三年生の生徒が、半月後には平均5時間以上集中するようになった」

「指示しないと何もしない生徒が自ら計画を立てて勉強している」

「いわゆる“片付けられない人”だったのが、整理整頓がうまくなった」

「過干渉の親が子を信頼するようになった」


受かった。合格した。伸びた。変わった。目標が明確になった。勉強することの大事さや楽しさが理解できるようになった。ありがとう。ありがとう。ありがとう!

それが今まで言われてきた言葉の数々です。


話が変わりますが、かつてオイルショックという事件がありました。


これは1973年の第四次中東戦争を契機に、原油価格が最高で二倍になった事件のことです。トイレットペーパー洗剤など、石油原料で作られる製品が買占め騒動により高騰。日本でも文字通りの大パニックだったようです。

これは70年代末まで二回にわたり世界を騒がせたんです。

結論から言うと、この事件は日本を強くしました。

世界各国の、特に先進国が原油価格の上昇に伴い、国内の販売価格も上昇させていったんですが、なんと日本だけは石油パニック以前のままにして値段を変えなかったんです。確かに便乗して値を吊り上げる業者もいたようですが、実質そんな必要はありませんでした。

消費者に皺寄せを与えず、輸入から加工、国内のあらゆるプロがその工程を見直し、もろもろの技術革新を成立させたのです。

確かにアラブの石油王たちは億万長者になりました。彼らのような大富豪は日本には現れないでしょう。当時もいなかった。

しかし、その巨億の富を持った石油王たちは、どこに金を使うのだろうか?


彼らは、先進国の、とりわけ日本製品を買いました。中東の石油精製施設や、ダムなど河川事業、そういった根幹の技術を提供していったのはほとんど日本人だったんです。

30年40年と経たそれらの機械が、定期的に油をさすぐらいでまだ動いているんです。

今でも。石油王たちの巨億の富は、製品購入という形で再び日本に返された訳なんです。

石油王たちはどんなに石油を高く売ろうとも、結局、もっと高くなった日本製品を買っていただけだったんです。

彼らにその技術は無く、買うしかありませんでした。

彼らの富は、ゆっくりと減るしかないですね。

日本は無形の“技術”を売りにすることによって、富を蓄えることができるようになった訳なんです。


理系は技術を磨き、文系は英語を磨きました。これは開国以来の方針がまだ生き続けていたゆえの奇跡だったと言えます。


例えば、日本の理系大学最難関のひとつ東京工業大学は、受験の際、英語がとんでもなく簡単なんですね。

高校入試レベルと酷評する人もいます。その代わり、数学、とりわけ理科の難易度は、まるでUFOの作り方でも書いてあるかのような難問なんです。

これは、英語力なんか新聞が読める程度であればどうでもよいという考えで、日本は、こと技術に関しては他国から学ぶことは無いと言う強靭な自負心があるのです。


東工大、すごい!


しかし一方で、日本では英語を文法中心で教えてきました。

よく批判されますが、これは、契約社会の欧米人を相手にしていたことが由来しています。

たとえば我々が日本語の法律や医療の専門書を読もうとすると、ふつう難解で手が付けられません。

これは英語を使う外国にしても事情は同じで、高度な文法力や論理力というのは、教育によって身に付けるしかないのです。

戦後の日本の英語教育は、とにかくいい製品を有利な契約条件で販売することを念頭に、徹底した読み書きの力を要求してきていたんです。


技術と英語の両輪がうまく回ることにより、日本は高度な経済大国となったんです。

日本人は、資源が無いゆえに、勉強しなくてはなりません。



「なんで勉強なんかしなくちゃいけないんだ!」


よくあるこの疑問を口にする高校生に必ず、俺は力強く答えます。



「それが日本人の宿命なんだ!」



俺は勉強をしなくなったという日本人を再生するつもりでいます。



今回、『みるみるやる気が出てくるノート術』というマニュアルを有料で公開することにしました。

全4章構成でなるこのマニュアルは、ノートについて語る第1章の見出しを読んでもらえれば、俺の考えが大まかに想像できると思います。


第1章 ノートの意義
1.ノートは自分用に辞書を作る作業である
2.辞書とは常に正確な知識を知り、思い出すための道具である
3.思い出せるよう練磨していく道具のひとつがノートである


この意義を形にしたノート術を得ることにより、次の効果を期待することができます。


1.日々の学習が整理できる
2.自己分析が容易になる
3.学習計画が立てやすくなる
4.みるみるやる気が出てくる


これだけの効果を物にするための生涯学習ツールを、本来は月謝5万円以上で半年以上面倒を見ている塾生たちのみに対して提供していました。

が、実は今回、俺はこの夏をもって退職することにしましたので、7000円でみなさんに提供することにしました。

マニュアルとしてまとめてあるので、手付かずの自学習をまたスタートさせたいあなたのものにしてほしいと思います。


注文コチラまで。
posted by ヤン☆スー at 04:21| Comment(55) | TrackBack(0) | プレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月10日

自学習力100upへの感想

 とても反響の多いシリーズで嬉しいんだ。

 それだけに、自学習できなくて悩んでいる人間が多いって事だよね。

 本シリーズもいよいよラストスパートに入るんだけど、これでほとんどの人は自学習力を身につけることができると思う。

 たくさんの感想を寄せられているので、そのあたりも参考にして欲しい。



☆学校の教師から

≪薗部 岐阜県大垣市≫
 私は中学教師10年目です。生徒からの勧めで昨年から読んでおります。作中に一貫した自学習とそのモチベーション付加への情熱がすばらしいと思います。確かにそれだけできれば参考書と問題集だけで勉強が進みます。あなたのメールマガジンを参考にしている現場教師も多いと思いますよ。私は参考にしています。今度うちの学校で講演でもお願いします。


≪あかりん 岡山県赤磐市≫
 ものすごく強引なのでトラブルも多い方だと思いますが、魅力に引き込まれます。きっとそうやって最終的には皆の信頼を勝ち得るのでしょうね。今度は教師の再生をテーマにしていただけるとわたしにも参考になります。


≪コーイチ ?≫
 学校や塾予備校の枠を飛び出してるくせに、ちゃんと組織人というのがすごいです。あなたの姿勢を真似て職員会議に臨みたいんですがうまくいきません。ほんとに同い年とは思えません!!


☆親から

≪ゆかり 長野県飯田市≫
 最近は教育荒廃の元凶のように言われる私達母親ですが、一条の光明をみせてくれて嬉しく思います。ただ、母親は子供がいくつになっても心配な物ですよ。ケンタ君のお母さんをあまり酷に扱わないでくださいね。応援してます。


≪匿名希望 東京都新宿区≫
 これからは息子に片付けをさせます。


≪愛 新潟県≫
 今度女の子が生まれます。ヤン☆スー先生のように教育にプライドを持っていきます。


☆受験生から

≪あきら 栃木県足利市≫
 ヤン☆スー先生!片付け頑張りました!やっぱり見える世界が変わりますね!これからスランプに陥ったら片づけするようにします!


≪ぷう 青森県弘前市≫
 ついつい怠ける癖があったんですけど、みんな同じ心理なのだとホッとしました。ヤン☆スーさんも頑張ってください。


≪平太郎 埼玉県熊谷市≫
 このメルマガを読んで母の偉大さを知りました(笑
 スポットの当て方がすごいです。


≪渋崎隆一 奈良県≫
 成績表で性格がわかるって担任に言われたことがあるんですが、ヤン☆スーさんのその解説がわかりやすかったです。プロの目はごまかせないですね、反省しました(笑)


☆お嫁さん希望から

≪るい ?≫
 かっこぃぃ!!ぁたしがお嫁さんになるよ☆


≪マチ 埼玉県草加市
 今年から草加で花の女子大生です デートしてください♪ 結婚してもいいですよ♪♪
(*0_0*;)



 まだまだメールが来るんで、また特集するよ。
 これから総仕上げだからね!
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2005年07月22日

自信を失くしたら観るDVD『ルディ〜栄光のウィニング・ラン〜』

ルディ



 どうしてもやる気がなくなってしまうときがある。

 焦りだけがどうしても増してくるのに、机に向かえばマンガやゲームのコントローラーに手が伸びてしまう。

 自己管理で、最も自己嫌悪になってしまう瞬間だ。


 俺はたくさんの生徒を見ていて、症状に応じた≪シネマ・セラピー≫と勝手に名づけた気分転換を図らせている。


 本作『ルディ〜栄光のウィニング・ラン〜』は、実力なんかまったくなかったのに、ただ熱意としつこさだけで憧れの舞台−アメフトの一流チームのメンバーとしてグランドを駆け抜ける−を叶える。


 物事の道理とか手順をわきまえている人間として、これは非常に説得力がある映画だ。しかも、実際にあった話をまとめているのだ。


 主人公ルディは体も小さく才能も無い。彼が夢を叶えたのは、そのひたむきさゆえだった。


 スポーツの世界なんて本当に残酷で、才能が無ければどんな努力も無駄でしかない。


 俺はこの映画を見るまで100%そう思っていた。それが、今80%ぐらいになっている。

 スポーツの世界ですらそうなのだから、毎年何万人も初心者が叶える志望校の受験なんて、なにほどのものかと思ってしまう。



 受験なんてちっぽけな問題に、自信をなくしている君を立ち上がらせてくれる、いい映画だ。


 観てごらん。ほんとにいい映画だ。勉強したさがあふれてきて、前に進みたくなる。あれほど挫折と無力感にさいなまれていた昨日をすら忘れさせ、脚が前に進んでいく。

 観てごらん。ほんとにいい映画だから。



ルディ
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2005年06月21日

推薦のツボ(1)

 正直、社会人経験を通して受験業界を見ると、学校はおろか予備校でもまともな大人がいないと確信する。

 学校なんてポイントのズレたノロマばかりだし、予備校なんてその学校の先生にすらなれなかったようなバイト崩ればかりだ。

 せいぜいが教科指導のプロフェッショナル風情がいいところで、迫力ある職人に出会う事なんてまずない。

 それを決定的に確信したのが、もう5年ぐらい前になるかな、ある生徒の推薦入試に携わってからだった。

 公立の農業高校に通う、加代を国立千葉大学に入れた時の話だ。

 進学校でもなければ普通校でも無い加代は、当初は大学なんて全く考えていなかった。

 さりとて、就職やら専門だとか、具体的な進路の事も考えてない。

 いろいろ理屈の多い子だが、要は就職を一段見下していて、そのクセ進学するほど努力したくない。

 そんな心性が感じられた。

 担当の営業がムリヤリ契約したと言って怒っていたが、俺としては話が一歩前に進んで良かったなぁと思う。

 そんな彼女は、学校の成績がいい。

 学校側から推薦入試を勧められていた。

 加代自身も、俺にも異存は無い。

 俺は神経質な痩せぎすの加代と会い、さっそく進路のカウンセルを始めた。

「加代ちゃんね、まずおさらいからしよう」

 彼女の通うのは県立の農業高校。偏差値で言えば40未満。

 実業高校には必ず特別な推薦枠がある。

 商業高校なら経済学、工業高校なら工学、そして加代の通う農業高校には農学に優先枠がある。

 農学と一口に言っても、農業・畜産・園芸・環境・バイオなど、実は幅広い選択肢がある。

 学校で聞いているかもしれないそれらをざっと説明し、加代のイメージをある方法でまとめる事にした。

「もっとちゃんとメモ取ったらいかがですか?」

 A4サイズの白紙の落書きのようなメモを見て加代は皮肉げに言った。

 頭いてー。

「これは 七田式とかマインド・マップと呼ばれるノート法だよ」

 中央に目的をキーワード化したのをひとつ書き、そこから枝葉を広げるように様々なイメージ、問掛け、必要物、予想、それらを線で結んで絵や字で記入していく。

 非常に思い出しやすくなる、脳に適したノート法である。

「そうですかね」

 科学的な態度だけど、進まねぇなコイツ(泣)

「話を進めよう」

 この七田式のノート法は、イメージ分析が楽になる。

 およそ30分話し、加代は都市の緑化に興味がある事がわかってきた。

「ただ佳代ちゃんな、勉強したくなさ過ぎ。思考とイメージがこっちから完全に止まっちまってるよ」

「悪かったですね。けどそれをやるのもヤンさんの仕事じゃないんですか?」

 はいはい。

「俺にできなくて、加代ちゃん自身が逃げちゃいけないことがある」

「なんですか」

「君が君自身の事に興味を持って、その自分自身を大切にすることさ。足りない。加代ちゃんにはそれが」

 俺は皮肉やおどけではなく、まっすぐ加代の目を見て言った。

「俺が言うからとか、俺のためにとか、君には余計な話しじゃないか。受験や将来は君の事だろ? 俺の事は放っとけ。大人なんだから勝手にやるさ。加代ちゃんは自分で興味がある事すら何も調べてないじゃん」

 さすがに口先で対応できず、加代は押し黙った。

「加代ちゃん、今の高校がどうだとかのコンプレックスが君の足を止めている」

 加代はばつが悪そうに俺の顔を見た。図星だったのだ。

 俺は一呼吸置いて、言った。

「こんな話がある」

 ある予備校に有名な古文講師がいる。

 こいつは若い頃、名うての暴走族で、通ってた工業高校だって先生の説得でなんとか卒業までこぎつけたぐらい。

 彼はモデルの女の子に惚れ、口説き落とす。

 卒業後、同棲するが、同じモデル仲間の大学生に気移りされ、ついに、

「大学ぐらい出てないと…」

 と、ヒドイ一言でフラれてしまう。

 それが相当ショックだったらしく、腹一杯飲み食いして雪山でパンツ一丁になって凍死、つまり自殺を企むんだが、寒すぎて今度は自殺どころじゃない(苦笑)

 彼は気付いた。

 死ぬのがこんなにツライなら、死んだ気になって勉強して大学行こう、と。

 彼は予備校に入り、勉強を始めた。

 ひらがなばかりで漢字が少ないという前代未聞の理由で古文を選び、次第にその魅力にはまっていく。

 彼は国語のみで入れる國學院大学の国文学を選ぶ。

 ユンケルをぶち込んだコーヒーを飲み、手の甲に針を刺して睡魔に耐えた。

 わずか4ヶ月程度の受験勉強で、國學院大学に合格した。

 合格を確認すると同時に、無理がたたった体は病院送りになってしばらくの入院生活を余儀なくされたという。

「私にそんな根性は無いです」

 加代はすねたように言い切った。

「動機が無いんだよ」

「けど自分で見つけなきゃなんですよね?」

「手助けはできるよ」

 俺は加代が話に食い付いているのを感じた。

 この子はまだ見込みがある。

「加代ちゃん。おっちゃんもついてるよ」

 加代は薄く笑った。普通の女の子の感覚だと、くすっと笑ったようなものだろう。

「加代ちゃんに勧めようかな」

「何をですか?」

「千葉大学。国立なんだけどね」

「無理です!」

 合格権現はそう思ってない!

「千葉大学には園芸学部というのがあるんだ」

「だからムリです!」

「加代ちゃん、考えてみてくれ。君は自分の事しか知らないし、その自分の受験すらまだ知らない」

「だから私は自分の事を知ってます」

「それは安心だ。手間が省ける。それにね、加代ちゃん、僕はさらに1000人の受験生を知っているんだよ」

 加代はうつむいて黙った。俺の説得力を認めたのだ。

 もーかわいくないんだから(笑)

 コンプレックスもそうだけど、何より努力が嫌なのだろう。

「まあとにかく聞いて損はしないよ」

「加代ちゃんの高校は歴史があってね、実は推薦が豊富なんだよ」

 三流大学や三文学部に無駄学科が世にあふれたのは戦後の最近の話だ。

 そんな所に進学しようものなら、高い授業料を払わされる上、ヘタをすると高卒以下の就職率で苦戦を強いられる。

 そういう大学が資金集めに学部学科を作るものだから、指定校推薦枠を乱発する。

 大半の高校はそういう大学の枠を押し付けられた形だ。

 ところが、古い高校になると、信頼のある大学に優先枠があったりする。

「千葉大にあるんですか?」

「ないよ」

 加代は怒った。

「おちょくらないで下さい!」

「悪い(笑) けど話は最後まで聞いてよ!」

 国立大学に指定校推薦は無い。

 指定校推薦というのは、大学側が高校に対して「あんたのトコから○(1〜3)人推薦して」という制度で、高校側が選んだ生徒は99%入れる。

 それは前に言ったように、役に立たない学部学科が大半を占める。

 やらしい言い方をすれば、高校と大学の癒着みたいな物だ。

 ところが国立にはもうひとつの公募制推薦しかない。

 これは普通の受験より難しい時もあるが、戦い方がある。

 公募制推薦。

 これは、大学側が条件を示したものである。

 評定平均(通知表の平均成績を5段階に換算したもの)が○以上とか、出欠席や、部活や校内活動の実績がどうとかの“優秀者”に有利な制度だ。

 これは校内で高水準を保てれば、学校差は関係無い。

 県内の偏差値70の“優秀者”と、加代の通う偏差値アンダー30高校の“優秀者”とは、実は条件が一緒なのである。

 ま、どんな学校でも、上の方にいる奴はしっかりしてるからね。

「加代ちゃんは千葉大学の園芸学部に公募制推薦を利用して合格する」

 ズバッと言う。

 千葉大学と言えば、県のトップ校でも浪人覚悟の名門国立大学である。

 推薦の合格発表は11月。

 合格すると、センター試験の受験資格がなくなったり、余程の理由が無いと辞退できなくなる。

 千葉大学の園芸学部には毎年5人ていどの推薦枠があり、それは農業科のある高校から出願できる。

 倍率だって2倍は無い。

 1,2倍ぐらいだから、7〜8人なのだ。

 しかも冷静に考えると、農業高校からプロの後ろだてを受けて推薦を受ける奴なんてどのぐらいいるか?

 それを聞いた加代の表情が確かに変わった。

「加代ちゃん、この合格権現がついていれば勝てるってのは、こういうことさ!」

「…はい」

 調子の上がった感じの俺にムカついたのか、返事のキレが悪い。

「加代ちゃんな、君は成績も生活態度も良く、各種活動の実績もある」

 俺はプリントを裏返して赤ペンにサッと書き列ねた。

「小論文、面接…」

 加代に音読させて悪ノリする。

「加代ちゃんの課題だよ」

 知ってるわよ、という顔をするので、突っ込んで話そう。

「それぞれにはきちんと目的がある」

 俺はまず小論文にマルをした。

「小論文の目的は論理性を測るためだといわれる」

「はあ…」

「論理性というのは『AはBで、BはCでもある。だからCはAでもある』というね、事実やある根拠を元に物事を証明することだよ」

「わかってますよ!」

 ま、半分もわかって無い顔だな(笑) 今はそれでもいいよ。

「加代ちゃんは小論文得意?」

「書いた事ありません」

「じゃあ作文得意?」

「いえ…あまり」

「それは好都合」

 何をケッタイな事をこのオッサンは、という顔で見られた(笑)

 教えてやるからもう信じろよ!

「実を言うと、作文と小論文はまるで違う」

 作文はテーマに沿って何でも好きな事が書ける。

 ところが、小論文にはルールが多い。

 まず、問題に対する自分の立場を明確にしなければならないし、そこから自分の主張に対する反論を前おいて対策や次善策を配置する。

「難しいですね」

 加代がうんざりしたように言った。

「けど、それだけルールが決まってると、そのいくつかのルールを押さえてしまえばいくらでも対処できちゃうんだよ」

 だから下手に作文が得意だと、変なクセが抜けなくて困るのだ。

 加代に課題を出すことにした。

 彼女の場合、漢字の読み書きなど、基礎的な問題もあるので、それと並行したうんざりするトレーニングになる。

「これを毎日ですか?」

 キレ気味に言った加代の目の前に積んであるのは、厳選した小論文の好例である。

 字数やテーマなど、なるべく近いものを選んだつもりだ。

 加代はこれを毎日ひとつづつ丸写しするのだ。

 それも1日10回(笑)

 模写はセンスを習得させる。しかも短期間で。

 感性工学という学問の最新の研究でも、知識の量が感性に影響する事がわかっている。

 小論文のトレーニングは、まずペンを握り慣れていない彼女の指にペンだこを作らせた。

「見ろ、加代ちゃんの指から変わってきている!」

 なるべく前向きに捉えた言葉を短く使おうと決めていたので、実はこのセリフもすでに用意していたものだ。

 この言葉は加代の中の“勉強をやらされる被害者意識”から、“昨日との違いを成長と捉えて楽しむ意識”に切り替えた。

 あいかわらず俺にはシニカルな言葉を投げつけるが、言われたことはキチッとこなす。

 勉強は楽しいし、大切な事もわかりかけてきていた。
posted by ヤン☆スー at 11:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

推薦のツボ(2)

 一週間経って加代にテストしてみた。

 もちろん漢字は駄目だし、論理もまだ甘い。

 しかし何より、加代自身がそれを強く自覚できたのは大きい。

 加代は論理力を伸ばしたいという欲求を芽生えさせていた。

 こうして改めて小中学校で習うような文法の学習を指示すると、2日で仕上げた。

 そりゃ早すぎるかなと苦笑まじりにテストしてみると、舌を巻くほどの成長を遂げていた。

「なんだよなんだよ、カンペキじゃんかよ」

 さて、文法はOKだ。

「次に加代ちゃんに必要なテクは何だと思う?」

 ひとまず考えたいという感じの加代。悔しそうにうつ向いて考えた。

「主張ですか?」

「いいセンついてるね」

 正確には“対応”という事になるだろう。

 だいたい、思考のプロとして生きてる連中がだ、まだ生まれて20年も経ってない人間の思考主張をありがたがるだろうか。

「…無いと思います」

 試験官だって向こうの教授や取り巻き陣なのだ。

 イロハも解せぬ子供に気に入らない説を偉そうに言われるより、未熟でも同じ論旨の相手には肩入れしたくなるのだ。

 合格ボタンの押し方のポイントだ。

 そんなのわかるんですかと、加代の目が語る。

「調べよう」

 俺はパソコンを持って来て、インターネットを出した。

 まず千葉大のHPを開き、園芸学部の教授、助教授、講師らをメモ。

 今度は彼等のメモした名前をそれぞれ検索する。

「それぞれのスペシャリストってやつだからね」

 出るわ出るわ。

 著書、論文、講演記録、所属協会、あらゆる情報が立ち現れる。

「加代ちゃん、手に入れられるものは読もう」

「は、はいっ!」

「つっても、論文はほとんど英語だけどね(笑)」

 怒るなよ!

 しかしながらこれはあなどれない情報収集法である。

 例えば学会記録のページは他の大学の教授や講師なども出ており、彼等も調べれば相当なことがわかる。

「それだけその学問分野の世界に詳しくなると、興味も出てくるだろ?」

 加代は素直にハイとうなずいた。

「主張をよく調べるんだ。何を専門にした人が、何をしたがっているのかを」

 今度は返事すらなかったが、完全に食い付いた目で画面に見入っていた。

 その主張を元に加代には自分の夢を広げてもらってもいい。

 都市の緑化、大いに結構さ。

 小一時間もさせると、相当な量の情報が集まった。

 しかもかなり内容が濃い。

「なんなら大学や学部に直接電話や手紙やメールしてみてもいいじゃない。自分の意欲がかなり伝わると思うがどうだろう?」

「ハイッ!」

 こんな騙すようなテクは嫌いなハズでは(苦笑)

 ま、詐欺かどうかの境目は、本気で本当かどうかといったところだろう。だから捕まるような詐欺師でも本当は詐欺ではない瞬間もある。

 そんな区別はまだ子供だから必要ない。

「加代ちゃん、今日明日でプリントアウトした資料を読んで、君のやりたい事を書いて明後日提出して」

 採点するから。

 加代は緊張の面持ちでうなずき、言葉少なに教室を辞した。

 例の文章丸写しトレーニングの成果もかなりあり、加代は驚く程文章がうまくなっていた。

 小学生の読書感想文レベルだったものが、今ではきちんと高校生の小論文になっているのだ。

 丸写しには、論理構成や見せ方のポイントなどが早くに身につく。

 音読すると上達スピードが3倍になり、なお良い。

 3日後に見せる加代のレポートが楽しみである。

 彼女は18年間もの人生で知る事はなかったのだ。

 目標持って努力して伸びる事の楽しさを。

 この2、3日で加代の進学意欲はかなり大きくなっている。

 電話してくることも多くなり、FAXさせて添削することも受け入れた。

 最初の1回だけはそれをやらせるのもOKだろう。

 ただ、加代は質問が下手だ。

 本人もそれを苦にしている様子で、俺が相手じゃなきゃ気後れしてしまうのではないか。

「加代ちゃんが一番してほしい指導をしよう」

 質問のまとめ方を教える。

 実は、これができるようになるだけで学習ペースは2倍3倍になるのだ。

 いい質問は、自分の思考力を伸ばすのだ。

 質問は大切だ。

 分からない所が分からなかったり、分かっていても説明できなければ、望む解答を得る事はできない。

 しかしながら、分からない所が分かると、聞かれた側が楽だろう。

 しかしよく考えてみると、それだけの思考は自力で解答を探し出せるのだ。

 そういう物の考え方が基本に無ければならない。

 勉強とはそもそも、自力で机に向かい、カリカリやる事をいうのだ。

 塾や予備校に行っても授業時間が増えるだけで、勉強時間が増えた訳ではない。

「大仰な話ですね」

 加代がツッコム!

 ヤン☆スー流の質問は、まず勉強することから始まる。

「わかんないから訊きたいんですけど」

「加代ちゃん。わかるところまでやろう。わかるところまで」

 わからない所、曖昧な所がポイントだ。

 いつも勘で解答すると当たるので深くは突っ込まない。

「そうやって、何がわかってないかを知らなきゃ」

 これが意外とわからない。だからやってみて愕然とする。

 分からない所が分からないというのは、考えてない証拠なのさ。

「だからわからないんですけど!」

「どんつきまで考える。思考を続ける力はそうやって養う。君もそこらの何も考えてない奴らと一緒は嫌だろ?」

 ちょうど別の女子高生の素っ頓狂な声が上がった。

 ナイスタイミング!

 俺は視線だけで声のした方を見た。加代は沈黙した。

「加代ちゃんならできる。ただやり方があるから、それを教えたいんだ」

「はい…」

 加代はおしゃれをする子ではないので、ファッション誌やその読者層を軽蔑していたのだ。

「どう考えてダメだったかを書き留めてみな」

 結論→理由→結論という表現方法がある。

 例を挙げると、

「バナナが食べたい。なぜかと言うと、貧乏な僕でも手頃な値段でしかもおいしいから! だからバナナ食べたい」

 という感じ。

 これが理由→結論→理由となると、

「バナナってうまいよね。バナナが食べたい。あと値段も安いよね」

 ちょっと一度では伝わりづらい。

 スパッと伝えるにはこの構成が一番。

「加代ちゃんは勉強好き?」

「好きになりかけてます。知らなかった事が私の想像をかきたてるから。だから好きになりかけてます」

 俺、ちょっとジーンと来た。

 コイツ、まっすぐ言いやがった。

「勉強ってのは本当は面白いんだ。18年分を取り戻す気でやるからな」

「…はいっ」

 反応は悪いが、語尾に力がある。

 さて、質問の続き。

 どんつきまでやる。あの手この手を尽くしてみる。

 それを全部書き留める。

「加代ちゃんは、この小論文をどう伸ばしたいのかな?」

「千葉大の園芸学部の推薦に通るためです」

 合格!

「そうだ。じゃ、どうする?」

「考えます!」

「理想の姿に何が足りないの?」

 ホレホレ。

「どういう考え方や文章が試験官の評価が得られるか、知る事です」

「うん、まあそうだな」

 ちょっとエグい回答だな(苦笑)

「加代ちゃんね、それをより正確に言うと、千葉大がどんな人材を求めているかって事なんだ」

「…それは何ですか?」
現代になるとそれほど実感無いが、古い国立大学は、そういう姿勢が明確だ。

 例えば東京大学の使命は、日本国の優秀な官僚を育成する事にある。

 優秀な官僚は、膨大な文書にざっと目を通して、大意を理解し、さらにそれを簡潔にして次に伝達するのである。

「けど官僚って…」

 加代が偏見から何か話そうとして言い淀んだ。

「わかる。気持ちはわかるよ、加代ちゃん」

 しかし日本の官僚機構には歴史があるの。

 基礎からおよそ400年!

 加代はまた始まった、みたいな顔をした。

 しかしそうなのだ。

 西郷隆盛が無血入城したから、細かい事務処理をする役人たちが新政府でも活躍できたのだ。

 開国後に富国強兵が早く進んだのは、こういう地味な人達の働きもある。

 だからこう考えればスムーズに意思疎通できるとか、思考経路や作法を入試で試すのだ。

「東大なんかで言うと、大もとは江戸時代にあるからね」

「そうなんですか!」

 加代が感嘆したように言った。

 江戸時代はかなり高度な社会機構を整備している。

 当然そのほとんどを明治政府は無傷で手に入れた。

 そういう社会を作った大もとも、東大の前身から学んだ人達から生まれたのだ。

「話が逸れたね」

「いつもの事ですから」

 加代の涼しいイヤミを咳払いでかわし、レポート用紙を引き破いて机上に置く。

 千葉大は?

「今の千葉大ができたのは戦後なんだ」

 ターゲットである千葉大学園芸学部は、戦前は官立千葉農業専門学校という独立した学校で、明治時代に造られた富国強兵策から生まれたものである。

「そんな事知ってどうするんですか?」

 うんざり口調の加代が口を挟む。

 大切だから言うんだ(笑)

 当時の農業学は、日本を支える最先端の学問で、文系は英語、理系は農業というぐらい花形だった。

品種改良の研究者と、それを広める技師の育成が課題だったのだ。

「そうなるとどんな試験になるんですか?」

「どんな試験にしたら千葉大学園芸学部が欲しい人材になると思う?」

 思考の訓練中である事を自戒したか、加代はうつ向いて考え出した。

「参考までに、千葉大は文系理系を問わず、伝統的に英語の難易度が高めなんだよね」

 加代は武道家のようにカッと目を見開いた。

「理想を持って勉強しに来る生徒…」

「そうだ。理想家で勉強熱心なやつが欲しいんだよ。それも、黙って勉強しろ、というぐらいの勉強バカ」

 千葉大は地味な大学だと言われる。

 今風な学生もいるが、やはり真面目で勤勉な学生が多い。

「創立以来の校風が100年以上も生きているんだ」

 10代というと、校風だの伝統だのといったものは舐めてかかるものだ。

 学生達だって、校風だから守ろうという意識では無いはずだ。

「しっかりした大学ほど校風が明確だ。そしてその理由は、同じテスト問題でも、その校風と同じ思考経路から問題が出題されるからだ。だから自然と校風に沿った学生が大部分を占めるようになる」

 加代はすぅーっと息を吸った。

「…けど、わたしなんかがそんな所に入る資格なんてありません」

「けど、加代ちゃんは行きたいんだろ?」

 勉強が好きになりつつある加代は、勉強をまったくしなかった半生にコンプレックスがある。

「どっちにしても、国立大学に金で入れる裏口入学は無いよ。推薦入試までに実力が付けばその中に入っていいんだ。もちろん、最初の頃みたいにやりたくないだけに戻っちゃったんならやめさせたいけどね」

 加代がキッとなって睨んだ。

 この子はコンプレックスと反抗精神で伸びる。

 俺は、嫌われるんだ。
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推薦のツボ(3)

「ただ加代ちゃんはさ、せっかくお母さんが安くもない金はたいてこんな所に通わせてくれてんだから、お言葉に甘えて千葉大に行く方向で行こうよ。俺もそういう仕事だ。たんと協力するぜ」

 俺は千葉大の公募推薦と、その他の指定校推薦と、専門学校と、就職と、フリーターと、とにかく千葉大以外のデメリットをねじこむように説明してからどれがいいかを訊いた。

「…千葉大がいいです」

 一歩一歩が遅い子だけど、俺には勝算がある。

「加代ちゃんは18年分の遅れを取り戻したいって言ったね。俺はそれに応える」

 加代はようやく進みだした。

 こんなことは一度や二度ではなかったが(笑)

 まだ質問力の育成の途中だった。ずいぶんと横に逸れたが、根本の質問の仕方も続きだった。

「どんつきまで考えてから“わからない”ものを分析するんだ」

 こうやろうとしてみた。ああやろうとしてみた。

 そういう思考の軌跡を全て洗い出す。

「面倒ですね」

 面倒そうに教えてるからな(苦笑)

 本当は『簡単にするテクニック』もあるが、彼女の場合、時間があるからやらない。

 為にならない作戦も世の中にはあるのだよ。

「メモ取ってる? テスト出すよ(笑)」

 ハイハイとノートを取り出す加代。

「どんつきまで考えるんだけど、考えた事を全部メモしておくんだ。加代ちゃんはメモ魔になろう。それこそチビッコが『おかーさーん、これナーニ?』って繰り返すでしょ。あのネタ探すみたいにね。俺も未だにやるんだけど」

 加代は小さな字で『メモを取る→ダメだったかんがえも』と書いた。

「質問の仕方で喩えをあげてみよう。加代ちゃんは中学の時に陸上やってたんだよね?」

 関係無いでしょって顔をするが、大アリなのさ!

「後輩AちゃんとBちゃんがいたとする」

 俺は両手の人差し指を立ててAとBに見立てた。

「この左のAちゃんが『せんぷぁ〜い、わかんないですぅ〜』って来たとする」

 その口調に加代は嫌そうな顔をした。

 俺は構わず左手の指を強調した。

「今度は右のBちゃんが来て『先輩! 腕力はあたしの方があるのに先輩より円盤が全然飛びません。ステップをマネしてみたんですけど、こんな感じで良かったですか?』って来たら、AちゃんとBちゃん、どっちが教えやすい?」

 加代がなるほどという顔をした。

 加代は答えは分かったが、答えるのは嫌そうな様子だったので、俺は咳払いをひとつした。

「ま、言わずもがなだけど、Bちゃんだ」

 加代がコクリとうなずく。俺は締めにかかった。

「そう。いい答えが欲しければいい質問をしなければならないし、いい質問をしたければいい勉強をしなければならない」

「いい勉強…」

「そうだ。いい勉強というのは、どんつきまで考えること。ただし!」

 ダラダラ考えてりゃいいってわけじゃないのだ。

「Bちゃんが教えやすい理由は3つある」

 俺は人差し指を立てた。

「まず、何を目指してどこまでやったかが明確なこと」

 これだけでかなり教えやすい。俺は2番目の中指を立てた。

「それにBちゃんの場合、自分で考えながら練習してるから教えがいがあるよね。こんな真剣な子なら教え手として好感を持つはずだ」

 そして3つ目の薬指を立てた。

「最後に、こう具体的に聞いてくる相手は自分の成長を促すんだ。フィーリングだとか適当言う先生じゃ次は聞かれない!」

 いい質問は現場を動かすのだ。

 いい質問を嫌がるのは大した教え手ではない。

 実は昭和40年前後生まれのバブル期に教師になった人間は嫌がる奴が多い。

 しかしそんなのは例外で、真剣な生徒がいれば、元々どんな無気力な教師でもかつての情熱を思い出す。彼等はほぼ例外無く教えるのが好きでこの世界にいるのだから。

「性格の合う合わないは仕方無いけど、加代ちゃん次第で先生達が活性化する訳さ。加代ちゃんの都市の緑化に合わせて、ハゲた先生の頭もフッサフサしてくるさ!」

 俺のギャグがハマッてプッと吹いた。

 ナイスギャグ俺!

 加代は吹いた自分を許せないような顔をして我を取り戻した。

 かわいくねー(笑)

「まだ教えたばかりだから、質問の仕方だって使いこなせないと思う。最初は紙に書いてまとめるといいよ」

 念の為しばらくはまとめた質問をチェックする事にした。

 何度か手直ししたが、気分がノッてきているのですぐにコツを掴んだようだった。

 文章上の問題はクリアーした。

 小論文はあとひとつ。あとひとつなんだよ加代ちゃん。

 ほぼ一週間後。

「ヤンさん、国語の先生がなかなか捕まりません」

 来た来たっ!

 よくある勘違い。

 小論文といったら国語の先生だと思いこむ!

「国語の先生じゃなくてもいいじゃない」

 俺はにやにやして言った。

 また気味悪い笑いだなあと怪訝そうに、電話の奥の加代は「はい…」とだけ言った。

「小論文なんてね、言ってる事がわかりゃいいんだから、細かい文法までチェック入れてくる先生じゃなくてもいいのさ」

 専門分野に近い先生がいれば聞いてみりゃいいのだ。

 都市の緑化がテーマなら?

「あ、社会とか理科だ!」

「そ〜だね! 理系出身の先生全般頼れそうだね」

 加代の志望分野は守備範囲が広い。

 体育の先生以外なら誰でも相談に乗れそうだった。

「どう、先生の専門によって聞き方とかバリエーションありそうでしょ?」

「はいっ!」

 うわっ! いい返事(笑)

 このように法学や文学でなければ、厳密な文法を要求される事はない。

 しかもたくさんの先生に対して志望のアピールになるので、温かく見守ってくれるようになる。

 この際、ひとりでも多くの先生が味方になってくれるのは大きい。

 私立も公立も関係無く、派手な芽は摘みとりたい教師は多いのだ。

 小論文については、俺の布石は完璧だった。

 俺自身はハナクソ掘ってても加代が勝手に伸びていく。

 しかし、推薦入試は成績と小論文だけではない。

 面接がある。

 加代にはこっちの方が重大事なのだ。

 何せこのお人柄だ(苦笑)

 今話してノリにノッてる小論文の勢いに水を差す事はない。一段落着いてから始めれば良かった。

 俺は合間を見て『カヨでもわかる面接教室』というイラスト付きマニュアルの執筆を始めた。

 元ネタがバレたら激怒モノの我が行いである。

 バレなかったから良かったよ(笑)

 お世辞にも加代は口のうまい人間とは言えない。対人能力という点で言えば明らかに低い。

 同じ学校のヤンキー共の方がマシだろう。

 しかし加代には強みがある。

 生真面目だし、嘘はつかない。この点に関して言えば千葉大は有利とも取れる。

 この名プロデューサーとしては、そこをPRするのだ。

…などと考えれば緻密に計画する程の事ではない。

 この時点で加代の合格は9割方確信できた。

 常識的な立ち居振舞いを仕込めばいいだけだ。

 問題は、この屁理屈娘にどうやって常識を伝えるかだった。

「うん、イケるねぇ! 小論文は完璧に間に合うよ!」

 受験生にとって、現状を完璧と言われるよりも、間に合うと言われる方がリアリティがある。気も抜かないし、張りを持ってくれる褒め方だ。

 加代が話しづらそうにもじもじした。

「あの…面接の練習とか頼んでもいいですか?」

「学校ではやんない?」

「堂々としてれば大丈夫とか言われるんですけど…」

「ぷ」

 加代は自分を笑われたと思ってふくれたが、俺は片手で誤解を制した。

「そんな事しか言わないんじゃ、俺に聞いて正解だよ!」

「まずさ、この蛍雪時代を読んでも、千葉大の面接なんて10分ぐらいだよね。10分で何を知りたいと思う?」

 加代は考えた。考えたが、浮かばない。

「言葉遣いと態度だけだろう。考え方云々なんて小論文や調査書でわかるんだから」

 俺の歯切れの良い解答に加代がごくりと喉を鳴らす。

「加代ちゃんに礼儀作法の講義をしよう」

 加代は眉根を寄せた。いらんことを、という内心は明白だ。

「実は加代ちゃんは礼儀作法を大切だと思っている。最近特にそう思うから理由付けしてやりたいんだよ」

 それだ。

「加代ちゃんの中にふたつの本音がある。たぶん言葉にならない本音がね」

 俺は人を見抜く目がある。年輩の人にもそれは信頼されるものだ。

「ひとつは、そう思ってるハズだけど、礼儀礼儀じゃ人の本質はわからないって考えだ」

 これは実際にそう言った事もある。加代も頷いた。

「もうひとつは、礼儀作法をバカにするのは不勉強な証拠だって事もわかってきた。違う?」

 加代は一瞬遠い目をした。自己の内面を覗きこんだのだろうか。

「そうだと…思います」

「そう。学びはそうやって素直でいい」

 何でもかんでも自由だ平等だと言い立てるのは思考停止だ。

 それは礼儀作法の批判でもよくわかる。

「例えば、落とした消ゴムを拾ってくれた程度の相手と命の恩人に同じ“ありがとう”が使えるかな? 誰にでも最敬礼するような律儀な奴が、本心からの敬意を表現できる?」

 その気持ちを段階毎に分けて表現する形式が“礼儀作法”なのだ。

 礼儀知らずは仕方無い。

 が、礼儀軽視は不勉強を最大限悪用した無礼なのである。

「…わたしもそう思います。礼儀作法を教えて下さい」

「俺? できねぇ(笑)」

 いやもう加代は目に見えてキレかかった。

 ちょっと誤解があるかも知れなかったので、俺は加代をドウドウと制してから説明した。

「イジワルで言ってるんじゃなくて、俺も作法まで言われると礼儀知らずだからわからねぇんだよ」

 礼儀知らずは仕方無いのだ。

「頼りにならないですね」

 まあ当然のリアクションだ(笑)

「しかし面接ぐらいで礼儀作法も無いもんだ。ハイ、立って」

 俺は立ち上がりながら加代に声をかけた。

 その立ち上がった加代の背中の丸いことったら!

 まず見た目からだな。

「姿勢が良くなった感想は?」

「うーん…呼吸が楽になった気がします」

 前屈みじゃないから肺が圧迫されないのだ。

「よし、そのまま歩いてみよう!」

 ありゃりゃ(苦笑) やっぱり能楽みたいな歩き方だな。

「歩き辛いです」

 加代はこぼした。そうだろうそうだろう。

「両手をよぉーく振って歩いてみて」

「あ! 歩き易いです」

 背のスラッとしたモデルとかは、のびのびと両手両足を大きく振って歩く。

 そうじゃないとバランスが取れないからだ。

 好みで言うと山口智子とか、好みじゃないとこで言うとRIKACOとかがそうだ。

 俺からすると、これで加代はほぼ確実に合格する。

 不安要素はもう無い。

 姿勢を良くしたら目線が非常にまっすぐ前向きになった。

 それはそのまま加代の精神的態度にもなったようだった。

 ただ、それでも、俺に対しての性格的不一致というのだろうか、生理的に嫌な相手である事実は変わらなかったようだ。

 勉強が好きになったとは言え、傲慢に接したのが特に勘に障ったのだ。

 会社的には合格の体験談をもらえなかったりマイナスだったので敗北だが、個人的には、勝ちだ。

 加代ちゃん、おめでとう。
posted by ヤン☆スー at 05:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月11日

☆スタート(1)

いつからか“合格権現”なんて呼ばれ出した。

金さえ積まれれば東大にだって入れてやる。

お賽銭次第。地獄の沙汰もカネ次第。

だから噂を聞き付けて来る連中には事欠かない。


いわゆるハイソ系の母親が俺を訪ねて来たのは春の事だった。

年収何億の旦那を持つ、身なりも物腰も上品で、成金的な嫌みの全くない人だ。本当に育ちからいいのだろう。

「うちの娘は今年3年生になりますが、ここ1年ほど集中力が無い様子です」

つまり、その原因を見つけて叩き潰してくれという依頼だった。

子供相談室なんだからやりましょう!



結局、翌日の夜に訪問することになったんだけど、聞けることは聞いておいた。

彼女は中学の時に得意な英語を生かした職業を夢見て、今日に至るようだ。

母親の話しによれば、英語の成績自体は落ちてない。

ただ、他の教科がガタ落ちした。

数学なんかは見るも無惨な状況となり、来年は国立クラスから弾かれて私立クラスになったそうだ。

勉強時間は減ってない。

ポテンシャルは悪くないハズだ。

ただ、何かが彼女の意欲を邪魔するのだ。

「すいませんが、その日は僕の分もメシお願いします」



約束の日だ。

方向音痴の俺は多少迷いながら、アメリカじみた白い一軒家にたどり着いた。

ドアホンを鳴らすと、やや時間を開けて、見知らぬ少女が顔を出した。

「ハイ、来たよー」

ハイテンションなあいさつにきょとんとした顔をしたが、彼女はにこりともしない。スベッた!

さっと見た俺からの第一印象。

外見的にはなんかのアイドルみたいだが、表情が無機質だ。

その肩越しに母親が姿を見せた。

母親が静かに頭を下げ、ドアを閉めるよう促した。

まだ寒さの残る早春だ。


ダイニングキッチンに通され、熱いお茶を出された。

お母さんからはだいたい聞いてる?」

少女はコクリとうなずいた。今気付いたが、目を大きく見開いたまま、ジーッと俺を見ている。

家具の隙間から様子を窺う猫のようだ。

母親が配膳する。メニューは大皿に取った山盛りのパスタだ。

大皿料理は俺からの注文で、これに臭いのつかないものとも言ってある。

大皿のパスタとはいいセンスだ。

俺が立って取り分けに入る。

「君はまっすぐ相手を見るね」

俺は人懐っこいと言われる笑顔を見せて取り分けたパスタを渡した。

相変わらずしゃべらず、視線もそらさぬまま、それでいて、大きく頷いた。

そして、受け取った。

「お母さん、このパスタ、ウマイっすね!」

「美味しい」

初めてしゃべった。

「おっちゃんはヤン☆スー」

「ひとみです」

「ひとみちゃん、勉強はどうだい?」

「う〜ん」

俺はニヒヒと笑う。

母子二人もつられるように笑う。

食事が進んだ。

久しぶりだと母親が嬉しそうだった。

「ちょっと聞いたんだけど、ひとみちゃん外語やりたいんだって?」

「は〜い…」

「具体的にやりたい職業とかあるの?」

「あるんですけどムリかなあって」

「○○高校だったら外交官も夢じゃないと思うよ」

「それはムリですよ〜」

「そう、なんでかな?」

俺はそこそこの人間関係作りができたと判断し、次ステップに移る事にした。

「将来の夢とかあるんでしょ」

「ハイ。商社とかでバリバリ働きたいです」

「いいねぇ! 大学はどの辺考えてるの?」

「上智の英文科ですけど…」

「勉強の調子はどう?」

食事も終わり、母親も後片付けを始める。

「はぁい、ちょっと伸びなくて…」

「集中できてる?」

眉が上がり、ギクッとした顔を一瞬だけした。

「わかった。ノートを全部持ってきて」

「全部ですか?」

「そう。授業とか受験勉強用とか全部」

ひとみはアヒルみたいにパタパタ走っていった。

母親が手を洗って戻ってきた。

「いやに従順ですね。いきなり俺みたいなのが来たら喧嘩ぐらいにはなりそうですが」

「あと無口になりました」

母親が立ち入れないらしい。

食事量も減ったらしい。さっきは久々にもりもり食べたのを見たという。

アヒル音が聴こえてきた。

「持ってきましたーっ」

「ん。見してみ」

もっともらしくページをめくるが、実は勉強の内容自体にはそれほど興味が無い。

ひとみの場合、几帳面にノートに日付が書いてあった。

そう。こういうのが見たかったのだ!

受験勉強用と題されたノートが特に顕著だったが、1日当たりの勉強量がかなり減っている。

学校の授業用なども、内容がかなり省略されている。

悩み事が原因だ。

それも…

「ひとみちゃん、集中力が無くなってるね。あとノートが雑になってきてる。読み返してもなんだか解らなくなってるんじゃないかな?」

母親にすばやく目配せをした。

「ちょっと机はどんな感じだい? 受験環境デザインって言葉があってね…」

ためらった感じだが、母親が『見てもらいなさいよ』的な顔をしてひとみをうながした。

「原則ね、席に着いたら手の伸びる範囲に気の散る物を置かない。マンガとかリモコンとか」

「はぁ〜確かにそうですよね〜」

ひとみに先導させながら簡単に解説した。


入ってみると、俺が何か言うまでもない部屋で、この年の女の子らしい装飾を除けば、ほぼ理想通りだった。

机の左手の壁に時間割表が貼ってあり、それがまたかなりきちんとしている。

学校だけではなく、その日毎のスケジュールが一週間分びっしり書き込んであるのだ。

「あれ、ひとみちゃん塾行ってんだ!」

中学時代から行っていて、この辺りでは広くチェーン展開しているさる有名塾だ。

ここは大学生講師が主体だ。

なるほど。

「おっちゃんね、ひとみちゃんが集中できない理由がわかってきたよ」

そう言われたひとみは上目づかいで俺を見た。

「ここの講師と付き合ってるね?」

小さく、ハッキリ言った。

ひとみは目を伏せた。

「違います」

「微妙に違うんだね」

「お母さんはどこまで知ってるんですか?」

それはそれはもう、覚悟と怯えが半々の、犯罪者の妻みたいな顔だった。

俺は首を振った。

「お母さんは何も知らないよ。おっちゃんはね、ひとみちゃんが集中できてないのはなんでだろうって、ここに来たんだ」

ひとみはうつ向いた。

「さ、教えてくれないかな。ひとみちゃんはもうスタートしないと」

ひとみは、ぽつり、ぽつりと語り出した。

彼女はお手付きではなく、まさしくアプローチを受けている最中だった。

それも相手は学生のバイトなんかではなく、れっきとした大人の講師だった。

その講師にいろいろ教えてもらえるメリットはあれど、うざったいお誘いまであるそうだ。

平静な顔で聞いていたが、具合が悪くなりそうな話だ。

いや、確かにかわいい子だ。

けど子供じゃないか。

二ヶ月前に、不意に抱きつかれたんだとか。

大変な話だが、ひとつ気になる。



コイツ、意図的じゃないか?
posted by ヤン☆スー at 07:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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